WASEDA UNIVERSITY
              
 
 

 超伝導転移温度(Tc)を上昇させることを目指して

(文責: 入山 慎吾 2008年)

 
 

現在、ダイヤモンド超伝導体のTcは10K(-263℃)程度です。この温度は100K以上の値を有する高温超伝導体のTcと比較するととても小さい値です。しかし、「超伝導特性を有する半導体」の中では最高のTcを有しており、非常に注目されている物質です(図1)。半導体特性と超伝導特性を併せもつ利点を生かして、超伝導スイッチングデバイス等の応用が考えられています。

 

LSI多層配線へのCNT応用

図1 半導体の超伝導転移温

 
また、ダイヤモンドは超伝導体として非常に優れた物性を有しており、地球シミュレータによると100Kを超えるTcが出ると計算されています。現在報告されている最高のTcは138Kであるので、ダイヤモンド超伝導体がTcの最高値を更新する日が来るかもしれません。
 
我々はダイヤモンドのTc上昇を目指して研究を行っています。まずは「Tcがどのような要因によって決定されているか」ということを見つけ出すことが重要です。そのために、X線回折、X線吸収、光電子分光、ラマン分光、2次イオン質量分析等の各種物性評価を行っています。
 

最近の研究「高濃度ボロンドープダイヤモンド超伝導体における結晶格子の伸張」

はじめに

これまでに川原田研究室では、様々な合成条件で超伝導転移を示す高濃度ボロンドープダイヤモンド薄膜を作製し、ボロン濃度が増加するにつれて超伝導転移温度(Tc)が増加することを確認しました。(ダイヤモンド合成方法、超伝導、ドーピングに関しては「2006年 高濃度ボロンドープダイヤモンドにおける超伝導の研究」を参照してください。)ここで、ほぼ等しいボロン濃度(約8×1021/cm3)を有する(111)方向に成長させた薄膜と (001)方向に成長させた薄膜とを比較すると、図2に示すように(111)は2倍近く高いTcを有していることが分かります。このことから成長方向がTc決定の重要なファクターとなっていることが考えられます。そこでX線回折法を用いた逆格子マッピングにより結晶格子の伸びの評価を行い、(111)薄膜と(001)薄膜の成長様式の違いを検討しました。

 

LSI多層配線へのCNT応用

図2 等しいボロン濃度を有する(111)薄膜と(001)薄膜のTcの違い

 
実験方法

薄膜用4軸X回折計を用いて非対称面逆格子マッピングを行って、結晶格子の伸び(格子定数の変化)を観測しました。この方法の概略を図3に示します。一般に、X線回折法を用いる場合は対称面での回折を用いますが、この方法では成長方向の格子定数の変化しか観測できません。Tcと格子の伸びを議論するためには面内方向の情報も重要であるので、この実験では非対称面((113)面)での回折を用いました。

(113)逆格子点近傍においてωを変化させながらω-2θスキャンを繰り返し行い、逆格子空間を2次元的にマッピングを行います。その結果に現れる下地ダイヤモンド基板のピーク(S)と成長させたボロンドープダイヤモンド薄膜のピーク(L)の位置関係から結晶格子の伸びが分かります。この図の場合、成長方向の格子定数が約0.4%伸びており、面内方向の格子定数は基板とほぼ整合していることが観測されています。
 

ビア構造から成長させたCNTの(a) SEM像, (b) TEM像

図3 逆格子マッピング法

 

実験結果

合成時間を変化させて(0.5〜8時間)作製した様々な膜厚(0.2〜4.2μm)のサンプルを用いて、上記の逆格子マッピング法により格子の伸びを測定しました。その結果、図4に示すように(111)薄膜のみに歪み層(面内方向は基板に整合し、成長方向のみに格子伸張した層)が存在することが分かり、(001)薄膜とは異なる格子の伸び方をしていることが明らかになりました。この歪み方の違いがTcに影響を与えている可能性があり、さらに研究を進めています。

 

図4 (001)、(111)薄膜の成長様式