WASEDA UNIVERSITY
              
 
 

 高濃度ボロンドープダイヤモンドにおける超伝導の研究

(文責:竹之内, 改訂:岡田)

 

まず、超伝導とは?

超伝導とは、ある特定の物質を低温に冷却すると、ある温度で電気抵抗がゼロになる現象です。また超伝導を示す物質のことを「超伝導体」、超伝導体が超伝導状態を示す温度を「Tc」と呼びます。超伝導状態になると、「ゼロ抵抗」以外にも超伝導体内部から磁場が排除される「マイスナー効果」といった特徴が挙げられます。これらの超伝導のユニークな特徴を利用して、超伝導磁石を利用したリニアモーターカーや医療用MRI、超高感度の磁気測定装置SQUIDなどに応用され、現代社会には必要不可欠なテクノロジーになりつつあります。1911年に、カメルリング・オネスが、約4.2K (摂氏-269度) で、水銀の超伝導現象の観察に成功して以来、超伝導体の探索はさかんに行われ、1980年代には銅酸化物高温超電導体(Tc=30K ~ 160K)、2001年には、二ホウ化マグネシウム(Tc=39K)が発見されました。

ダイヤモンド超伝導の発見!!

2004年、E.A.Ekimovらが、高圧固相拡散法という合成手法を用いて作製した、ボロン添加ダイヤモンドがTc=約2Kで超伝導状態となることを発見しました。我々は、高純度かつ薄膜状の試料が合成可能な気相合成法(CVD法)を用いて、ダイヤモンドのカーボン密度の5%以上のボロンを導入し、ゼロ抵抗温度8Kの世界で最もTcが高い試料の合成に成功しました。また、ダイヤモンドの超伝導の発見により、ダイヤモンドは絶縁体、半導体、半金属、超伝導体と豊かな物性・特徴を持つことが明らかとなりました。

「ボロンドープ」ダイヤモンドとは??

本来、天然のタイヤモンドは絶縁体です。しかし、ボロンドープすることで、電気を流すことができます。それはなぜでしょう。
ダイヤモンド結晶において原子と原子は電子を共有することで共有結合しています。この状態に、ダイヤモンドの構成原子であるカーボンとは、最外殻電子の数が一つ異なる不純物原子(例えばボロン)を周期的に導入すると、原子間で共有する電子の数は変わらないので、結合を組んだ時にイオン化された原子と共有結合に含まれない電子を作ります。この電子はイオン化された原子によって電気的な束縛を受けるがその束縛エネルギーはエネルギー帯から少しエネルギー値のことなるところに電子の存在する準位を作ります。バンドを曲げずとも新しくバンドギャップにエネルギー準位を形成することが出来れば、そのエネルギー準位にそんざいするキャリアを考慮した上で電子の運動を考えることができます、これを不純物原子によるキャリアドーピングと呼び、我々はこのように、ボロンをダイヤモンド結晶に取り込むことで、本来は絶縁体であるダイヤモンドに電気が流れる状態にしているのです。この不純物原子から供給されるキャリアによって、ダイヤモンドの超伝導は生じていると考えられます。ボロンの濃度を増やすことで不純物準位はしだいにバンドを形成し、このバンドがエネルギー帯と交わることで絶縁帯から半導体、金属的伝導、超伝導体へと変化しているのです。

 

LSI多層配線へのCNT応用

図1. 不純物ドーピング模式図(Siの場合)

 

ダイヤモンドの合成とは??

我々は、CVD法(気相合成法)という手法を用いて、ダイヤモンド薄膜を合成しています。水素やメタン等を原料ガスとして高真空に保たれた反応管に導入します。マイクロ波を反応管に導入し、プラズマを発生させると、原料ガスが原子状活性種となり、これが母基板上に体積し、ダイヤモンド薄膜を合成することができます。他のダイヤモンド合成法に比較して、原料がガスのため、ガスの混合比の設定等でキャリア濃度等を制御することができ、また高純度な薄膜を合成することが可能です。今回我々が超伝導を確認した試料は、この方法によるものです。

 

LSI多層配線へのCNT応用

図2. CVD装置の概念図

 

これまでの研究成果

→(111)ホモエピタキシャルダイヤモンド超伝導薄膜

CVD法をもちいて、(111)成長させた高濃度ボロンドープダイヤモンド薄膜(ボロン体積密度:8X1021/cm3)において、超伝導転移開始温度:11.4K,ゼロ抵抗温度(Tcoffset):7.4Kの超伝導を得ることに成功しました。また、ほぼ同ボロン体積密度の(100)薄膜ではTconset=3.2K Tcoffset=2.8Kであり、(111)薄膜はよりすぐれた超伝導特性を有することを見出しました。

 

ビア構造から成長させたCNTの(a) SEM像, (b) TEM像

図3. 高濃度ボロンドープダイヤモンド薄膜の超伝導特性

 

→ダイヤモンド超伝導体の臨界電流密度評価

臨界電流密度(Jc)は、超伝導体が応用を考える際に、超伝導転移温度とともに重要な指標の一つです。ICPやFIBといった半導体用プロセス装置を利用して、Jc評価デバイスを作製し、臨界電流密度を評価しました。この結果、1.8K・0磁場下で(111)薄膜の場合Jc=57500[A/cm2] であることを確認しました。

→高濃度ボロンドープ薄膜の結晶成長方向による成長様式の違い

ダイヤモンドにある濃度以上のボロンを導入すると、ボロン原子のボーア半径が、カーボン原子のボーア半径よりも大きいことから、格子定数の伸張が生じます。X線回折を用いた逆格子マッピングにより(111)方向成長膜と(100)方向成長膜とでは、その格子伸張の様式に違いがあることを見出しました。

→高濃度ボロンドープダイヤモンド薄膜の伝導性変化

ボロンドープにより生成されるキャリア濃度を、ホール効果法を用いて測定し、超伝導体への伝導性の変化の経緯を追っています。その結果、ボロンの濃度の上昇とともに、ホール効果により導出されるキャリア濃度の上昇が確認されました。これをHall Factorを用いて説明することでTcとの相関を見出しました。超伝導を担うクーパーペアの生成は、電子が結晶中を動くことで、他の電子に対してマイナスのポテンシャルを形成し、そのマイナスのポテンシャルの影響が、運動量の保存則からフォノンを介して他の電子へと伝達されることで、ある電子が通った場所に引き付けられるように動き、電子と電子の間に引き付ける力が働くように見えることで起きるといわれています。Hall Factorは、磁界によって乱された結晶のエネルギー空間において電子のエネルギー状態がもとの状態に戻るまでの緩和時間をもとに導出されることから、結晶を超伝導状態へと導くエネルギー空間の変化を示す指標であると考えられ、ダイヤモンド超伝導のメカニズムを理解するうえで重要なヒントを与えるものだと考えられます。

今後、我々の研究が目指すところ

  • さらなるTcの向上(めざせ!!常温超伝導体)
  • 超伝導・半導体融合したデバイスの創造
  • ダイヤモンド超伝導体のメカニズムの解明と新規超伝導体探索の指針作り

ダイヤモンドのデバイ温度が高い(高いフォノン周波数)といった物性等を考慮すると、ダイヤモンド超伝導体のTcは更に高いことが予測されています。結晶性の向上やドープ方法の工夫等により、さらなるTcの向上を目指します。また、ダイヤモンドの超伝導の発見により、ダイヤモンドは絶縁体、半導体、半金属、超伝導体と豊かな物性・特徴を持つことが明らかとなりました。これらの特徴を生かし、超伝導体・半導体デバイスの創造を目指しています。

 

謝辞: 本研究は、以下の方々との共同研究です。

→ダイヤモンド超伝導体の超伝導特性

物質材料研究機構 ナノフロンティアグループの高野義彦博士ら

→ダイヤモンド超伝導体の電子状態

X線 吸収発光分光法 (電気通信大学 山田研究室)
X線 角度分解光電子分光法 (岡山大学 横谷研究室)
レーザー励起超高分解能光電子分光法 (東大物性研 辛研究室)

→ダイヤモンド超伝導体のフォノン分散関係

軟X線 非弾性散乱 (日本原子力研究開発機構 水木博士ら)

→ダイヤモンド超伝導体のその他超伝導物性

NMR:核磁気共鳴法 (大阪大学 北岡研究室)
STM:走査型トンネル顕微鏡 (東北大金研 西崎博士ら)