WASEDA UNIVERSITY
              
 
 

 ダイヤモンドを用いたバイオセンシング技術を目指して

(文責: 久我 翔馬 2009年)

 

半導体とバイオテクノロジー

半導体の技術とバイオテクノロジー、イメージが沸かない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この研究分野は比較的新しい分野で様々な研究がされています。現在のIT社会を支えている半導体を加工する技術は、非常に微細な構造を高精度に加工することを可能にし、また、プラズマでの表面処理など、物質の持つ性質を変化させる技術を確立してきました。このような、現代にある様々な技術を応用している半導体加工分野に技術をバイオテクノロジーの分野へ応用できないかどうか、多くの研究者が模索しています。

では、半導体加工技術をバイオテクノロジーに応用した一つの例を紹介します。図1は、ダイヤモンドの表面に直径が5~20μm(1μmは、1mmの1000分の1です。) の金でできたドット状のパターンを作成した際の光学顕微鏡像です。このような小さいパターンを正確に作るには、リソグラフィという半導体加工技術を使わなければできません。このように作った基板の表面をプラズマや、UVの照射によって処理し、DNAを固定します。DNAには蛍光物質を結合させておき、蛍光顕微鏡を用いて光学的に観察します。その結果が図2です。このように、ドット状の蛍光が見られ、ダイヤモンド上にDNAが確実に固定されている様子が観測できます。[1]

この他にも、微細なパターンを使ったマイクロ電極をセンサとして用いたり、生体分子の抽出に使われるであろうMEMSの作成、また、我々の作成する電界効果トランジスタ(FET)など、バイオテクノロジーと関連する様々な部分で半導体加工技術は使われ始めているのです。

 

図1 ダイヤモンド上に作ったパターン

図2 ダイヤモンド上でのDNAの蛍光検察の結果

ダイヤモンドを用いたDNAセンサ

私が現在行っている研究は、DNAの数十から数百塩基に一つの割合で存在すると言われる、1塩基多型を検出するセンサを開発することです。DNAの塩基配列はA,T,G,Cの4種類の「塩基」と呼ばれる暗号の並びによってできています。通常、塩基はA-T,G-Cの塩基がペアになって、二重螺旋構造をとります。その中に、ペアを作らない塩基対が存在しているとします。これが1塩基多型と呼ばれる部分で、多くの疾患へのかかりやすさや、その人が薬にかかりやすいかどうかが決定していると言われています。(図3)この1塩基多型を検出できるセンサの開発をすることを目指した研究を行っています。

ダイヤモンドを基板として用い、センサを作るメリットは、ダイヤモンドが生体物質との親和性が良いこと、表面の修飾がしやすいこと、空気中でも水溶液中でも安定して存在することが挙げられます。また、水素で終端されたダイヤモンド表面には、p型の半導体層ができることから、半導体素子をその表面上に作成することができます。これらのことから、ダイヤモンドは半導体技術をバイオテクノロジーに生かす上で、非常に魅力のある物質であると考えられます。

この、半導体であるというダイヤモンドのメリットを生かすために、私たちは溶液中で安定して動作する電界効果トランジスタ(FET)型のDNAセンサを作っています。(図4)このトランジスタは、ダイヤモンド表面が溶液に直接暴露されており、そのゲート表面にDNAが固定されます。FETは、通常は表面に印加する電圧によってドレイン−ソース間を流れる電流を制御するスイッチとして動作しますが、私達はこれを逆に使い、電流から表面の電位の変化を計測するセンサとして動作させています。DNAは溶液中でそれ自身が持つリン酸基がイオン化し、負に帯電しているため、ゲート表面に固定された1本鎖DNA(probe DNA)にさらに1本鎖 DNA(target DNA)をハイブリダイゼーションさせると表面がより負に帯電します。これにより、ゲート表面の電位は負にシフトします。図5から、そのシフトがしっかりと確認されていることがわかります。[2]
 

図3 相補的な二本鎖と1塩基ミスマッチを持った二本鎖

図4 ダイヤモンドSGFET

 

図5ダイヤモンドSGFETによるtarget DNA検出

 
このように、target DNAを検出することができるSGFETですが、これを塩基ミスマッチの検出に応用します。図3に示すようにtarget DNAに1塩基ミスマッチが存在すると、二本鎖DNAのハイブリダイゼーション効率は低下します。(すなわち、ハイブリダイゼーションしづらくなります。) この現象により、1塩基ミスマッチを持ったDNAをハイブリダイゼーションさせた際のゲート表面の電位シフトは、相補的な二本鎖をハイブリダイゼーションさせた場合よりも少なくなります。この電位のシフトの差によってミスマッチを持ったDNAの検出を行います。図7は、私達の作成したSGFETによってミスマッチを持ったDNAを検出した例です。この結果では、3mVの差で1塩基ミスマッチを持ったDNAと相補的なDNAを検出することができています。[3]私の実験では、それをさらに発展させ、ダイヤモンド表面を部分的に酸素終端化させるプロセスを導入しました。これにより、SGFETのチャネル表面は、完全に水素終端化されたダイヤモンド表面に比べ、負に帯電します。この酸素終端に由来する負電荷は、DNAに対して反発力をもたらします。この作用により、DNAへ基板から与えられる影響は低下し、DNAのミスマッチを高感度に検出できると考えられます。このプロセスにより、1塩基ミスマッチを持ったDNAをハイブリダイゼーションさせた際のゲート表面の電位シフトと、相補的な二本鎖をハイブリダイゼーションさせた場合のシフトの差は、約19mVと非常に大きくなりました。この電位差は、ミスマッチを検出するには十分に大きい差であり、ダイヤモンドSGFETがDNAのミスマッチを検出する上で十分な検出感度を持っていることがわかります。[4]今後は、塩基ミスマッチの検出をさらに高精度化することや、それを実現するための、ダイヤモンド表面とDNAの間の相互作用の調査をしていきます。また、その他にも、RNAとたんぱく質の相互作用などを検出していく予定です。
 

図6 SGFETによる1塩基ミスマッチを持ったtarget DNAの検出

 

参考文献

[1] G. J. Zhang, K. S. Song, Y. Nakamura, T. Ueno, T. Funatsu, I. Ohdomari, H.Kawarada,; Langmuir 2006, 22, 3728.
[2] J. H. Yang, K. S. Song, S. Kuga, H.Kawarda, ; Jpn. J. Appl. Phys. 2006, 45, 42, L1114.
[3] K. S. Song, G. J. Zhang,Y. Nakamura,K. Furukawa, T. Hiraki, J. H. Yang, T. Funatsu, I. Ohdomari,
H. Kawarada, ; Phys. Rev. E 2006, 74, 041919.
[4] S. Kuga, J. H. Yang, H. Takahashi, K. Hirama, T. Iwasaki, H. Kawarada,; (submitted) 2007.